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5/18 窓【365】

2011.08.24 *Wed
アパートの階段を上って三階。
一番角のドアノブに鍵を差し扉を開くと、いつもの光景が目に飛び込んできて知らずに頬が上がる。
「ただいま」
玄関から伸びた廊下の先、部屋のドアは開いていて。
真正面に位置する出窓に膝を折り曲げて腰掛けたアーロンが、手にした本から視線を上げる。
「ああ、おかえり」
パタンと本を閉じる音を聞きながら、オレはいつも靴を脱いで部屋に上がる。
家に帰り一番初めに目に入るのがアーロンというこの光景は、ひそかにオレのお気に入りだった。
「また本読んでたのか、好きだな」
「あんたもたまには読んだらどうだ?」
長い脚を床に降ろして笑うアーロンに肩を竦めて見せた。
「そういや、もうすぐこの部屋更新だけどどうする?もうちょいいいとこ引越さねえ?」
自分一人で暮らしていた頃に住めればいいと選んだ部屋なだけに、二人の生活を手に入れた今はもっといい部屋に住ませてやりたいという気持ちもあった。
だからアーロンが「俺は割とここが気に入ってる」と返した時は少し驚いた。
「どこが?狭いしよ、まあ汚いとまでは言わねえがキレイとも言えねえし」
ぐるりと部屋を見渡してみてもやはりこれといって褒められる所も見当たらない。
「この窓…」
「あぁ?」
「この窓が好きなんだ」
「窓?」
さっきまでアーロンが座っていた出窓を眺め渡すも、もちろん何の変哲もないただの窓だ。
何がそんなに気に入ったのか聞いてみたがアーロンはそれには答えずに、
「まあ…あんたが引越したいならそれでも構わない」
と笑った。


翌日。
少し出て来るがすぐ戻る、とアーロンが出掛けて行った。
引越し先を探す為に買ってあった雑誌を開き、めぼしい所に印を残していく。
数箇所当たりをつけた所で、出窓に置き去りにされていたアーロンの本が目についた。
「何がそんなにいいのかねえ…」
本を手に取り、いつもアーロンがしてるように腰掛けてみる。
パラパラとめくってみたが、内容は難しそうですぐに閉じた。
アーロンの出窓は、当たり前だが坐り心地がいいわけでもない。
釈然としない思いでふと窓の外に目を遣ると、ちょうど下の通りにアーロンが帰って来る姿が見えた。
気付くか?と手を振ってみたが、自分の帰宅時を思い浮かべ考えるとどうやら下からは見えにくそうだ。
アパートの階段は敷地をぐるりと回り込んだ方にある。
階段へ向かい歩き三階まで上る自分を想像し、そろそろかと思った頃に鍵を開ける音が響いた。
ガチャリ。
玄関のドアが開いて、アーロンの姿。
出窓に座るオレを見て一瞬驚いた顔をした後で、「ただいま」と笑みを浮かべた。

ああ、もしかしたら。

例えばもしオレが部屋で待つ立場なら、きっとアーロンと同じようにこの出窓に座る事だろう。
今から帰ると連絡がきた後に、少しでも早くその姿を見たくて。
そして、帰ってきたアーロンに一番に自分を認識してほしくて。

「おかえり」
「その本、読んでみたのか?」
「いや、書いてあること全然わかんねえんだもん」
笑うアーロンの視線の先がテーブルの上の雑誌に向けられていることに気付いたオレは、出窓を下り雑誌を丸めてごみ箱へと突っ込んだ。
「いい場所はなかったのか?いくつかチェックしてあったようだが…」
「気に入った場所はあったぜ?…ほら、この出窓」
出窓の桟をトントンと叩き示し、何か言いたげなアーロンを抱き寄せた。
「帰って来た時おめえがここに座ってると、一番に見えるから気に入ってるんだ」
額を合わせてそう言うと、お互いに若干気恥ずかしくなってどちらともなくくつくつと笑った。
「ジェクト、実はな…」
「実は、なんだ?」
「俺もあの本の内容、全くわからん」
腕の中で悪戯めいた目でそう告白するアーロンが余計に愛おしくて、気付けば唇を塞いでいた。


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5月に書いて更新せずに眠っていたものを今更取って出し。
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